損害賠償の消滅時効


ab4d85c7adc69bc96c439b2d0e3372c4_s人身障害事故によって、損害を被った被害者がすぐに加害者に賠償請求を行わず、長期間が経過した場合、賠償請求ができなくなるリスクがあります。

ここでは、このような消滅時効や期間制限の問題について、解説いたします。

 

不法行為の場合の消滅時効

民法は、不法行為による損害賠償請求権は、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」から3年で消滅時効にかかり、不法行為の時から20年が経過した時も同じだと規定しています(民法724条)。
では、被害者が加害者の顔と名前だけは確認したが、住所を確認していなかったため賠償請求ができず、長期間が経過した場合はどうなるのでしょうか。

 

【3年の消滅時効】

3年の消滅時効は短いので、起算点となる「損害及び加害者を知った時」は、裁判においては厳格に解釈される傾向です。

①「加害者を知った時」の意義

(参考裁判例)
戦時中に拷問を受けた被害者が加害者の姓を手がかりに長い年月をかけて本人を探し求め、加害行為から19年11か月後に、ようやく住所氏名をつきとめて訴訟を提起した事案
この事案において、裁判所は、「加害者を知った時」について、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味するとしています。そして、被害者が不法行為の当時、加害者の住所氏名を的確に知らず、当時の状況において賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、その状況が止み、被害者が加害者の住所氏名を確認したとき、初めて「加害者を知った時」にあたると判示しています(最判昭48.11.16)。

この事案は、被害者が加害者の所在を探し求めていたという事情があり、特殊な事案ですが、一般的には具体的な住所氏名まで判明していなくても、その気になって調べれば分かるという程度に特定できていれば、「加害者を知った時」に該当すると考えられています。

②「損害を知った時」

消滅時効がするには、加害者だけでなく、「損害を知った」ことが必要となります。

例えば、交通事故で負傷した被害者が、損害賠償請求訴訟を提起して1000万円の賠償金を手にし、事故から3年以上が経過した後、予想外の後遺症が発症して重度の障害が残った場合、さらに賠償請求できるかが問題となります。

このような事案で、当初予想もし得なかったような後遺症が生じた場合は、当初の損害とは別に賠償請求でき、時効も別個に進行すると考えられています(最判昭42.7.18)。

 

【20年の除斥期間】

裁判例は、20年の期間制限について、時効ではなく、除斥期間と判断しています。

除斥期間というのは、時効と異なり、中断がなく、当事者の主張(時効の援用)も必要としません。すなわち、加害行為の時から20年が経過すると、賠償請求権が消滅するという概念です。

ただし、20年の経過によって、絶対的に請求を認めないとすると、正義・公平の理念に反する場合もあります。そのような場合、例外的に除斥期間の停止を認める裁判例もあります(最判平10.6.12)。

 

債務不履行に基づく損害賠償請求の消滅時効

不法行為の場合と異なり、債務不履行に基づく損害賠償請求権の時効は、10年です(民法167条1項)。

したがって、不法行為に基づく損害賠償請求権が時効により消滅した場合でも、債務不履行に基づく損害賠償請求が可能な場合があります。

例えば、労災事故や医療事故において、加害者に安全配慮義務違反があった場合、債務不履行に基づく賠償請求が可能です。

 

国家賠償法に基づく損害賠償請求の消滅時効

加害者が国や公共団体の場合、国家賠償法に基づく損害賠償請求が可能です。

この場合の消滅時効は、不法行為の場合と同様です。

 

製造物責任に基づく損害賠償請求

欠陥商品による人身障害事故の場合、製造物責任に基づく損害賠償請求が可能です。

製造物責任法は、「被害者又はその法定代理人が損害及び賠償債務者を知った時から3年間行わないときは、時効によって消滅する」また「その製造業者等が当該製造物を引き渡した時から10年を経過したときも、同様」であると規定しています(5条1項)。

したがって、3年の方は不法行為と同じですが、10年の期間制限は不法行為と異なることになるので注意が必要です。

ただし、10年の期間制限は、「身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害又は一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害については、その損害が生じた時から起算」されます(5条2項)。
消滅時効や期間制限については、個々の具体的なケースに照らして判断する必要があります。

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